「海」へ向かいながら描かれるもの。西村有の欧州美術機関での初個展「Towards a Sea」を歩く
概要
本記事は、日本人画家・西村有の欧州美術機関での初個展「Towards a Sea」を、筆者が会場を歩きながら紹介する展覧会レビューである。西村の作品は、日々の散歩で撮影した写真や記憶を起点としながらも単純な再現には向かわず、人物や風景が生成の途上にあるものとして現れる。性別や年齢が判然としない人物像や、猫や犬の小さな肖像、工場の海景などが、描き直しの痕跡や薄く溶いた絵具の層によって、見え始める瞬間と消え去る瞬間を同居させている。会場はポンピドゥ・センターから徒歩圏にあるギャラリー・ラファイエット財団の現代アートセンター、ラファイエット・アンティシパシオン。19世紀末の旧倉庫の外観のうちに、OMAによる可動式フロアを内包する特異な空間で、鑑賞者は水紋のような二重の回廊をたどりながら作品と出会う。キュレーターのエルザ・クストゥは、本展を日本を拠点にする作家の制作環境に寄り添う「海」へ向かう道として構想したと説明する。展示は最古の《factory》(2018)から始まり、猫や犬の肖像、《gaze》(2023)などが続く。西村にとって「肖像」は人の顔に限らず風景や動物にも宿る気配であり、眺めていた私たちが見返される往還が会場をひとつの「心的風景」にしていく。
(出典:美術手帖)