第9回「即興と抽象」【佐藤直樹教授】東京藝大で教わる美術鑑賞のレッスン 東西比較で見る新しい美術史 蘆雪とジャクソン・ポロック
概要
本記事は、東京藝術大学の佐藤直樹教授による美術鑑賞コラムの第9回で、テーマは「即興と抽象」です。長沢蘆雪の江戸時代の作品《なめくじ図》と、20世紀アメリカのジャクソン・ポロックの《One: Number 31, 1950》を東西比較します。
《なめくじ図》は、ナメクジが這った跡を一筆の墨で描いた即興的な作品で、余白の中に不思議な造形美と禅画的な含蓄があります。一方、ポロックは身体を動かしながら絵具を垂らす「アクション・ペインティング」の技法で、画面全体を埋め尽くす抽象的な線の躍動感を生み出しています。
両作品の決定的な共通点は、画家が完全には支配できない「偶然」を作品に取り込んでいる点です。蘆雪は自然が生んだ軌跡を受け入れ、東洋的な自然主義哲学を示唆します。ポロックは偶然を創造行為に転化し、西洋の「人間中心主義」を体現しています。この対比を通じて、東西の芸術家が即興と抽象を異なる哲学的文脈で捉えていることが浮かび上がります。
(出典:美術展ナビ)